賀茂 (能) (Kamo (Noh))
賀茂(かも)は、能楽作品のひとつ。
別表記加茂、古称は矢立鴨。
賀茂御祖神社の縁起を気品高く、また勇壮に表現した能である。
作者は金春禅竹ともいわれるが、不詳。
戦国時代 (日本)末期の素人能役者下間仲孝の演能記録「能之留帖」に頻出している。
また、豊臣秀吉の命をうけて山科言経らが注釈をするなど、その当時からよく好まれた能である。
作品構成
播磨国室の神官が上洛し、賀茂社に参拝するところから能ははじまる。
舞台には、白い壇に白羽の矢が立った能作リ物、小道具が後見の手ですえらる。
前段
【登場人物】
能シテ 里の女
シテツレ 里の女
能ワキ 室の神官
ワキツレ 従者(二人)
室の神官が、都に上る道筋を「道行」とよばれる能謡で表現する。
賀茂社についたところで、川辺に壇がつくられ白羽の矢が立っているのを見る。
なんのいわれであろうかといぶかしむ。
そこに若い女が二人あらわれ、「御手洗や清き心に澄む水の賀茂の河原にいづるなり」と歌う。
神にたむける水を汲もうとするのだ。
先ほどの神官はその二人に尋ねる。
「自分は室の神官です。この川辺に壇を築き白い布に白羽の矢をたてて、神を祭っておられるようですが、これはどのようないわれがあるのでしょう。」
女はこの矢は当社のご神体ですと告げ、いわれを語りはじめる。
「昔この地に住んでおりました秦の氏女という女性が、朝な夕なこの川の水をくみ、神にたむけておりました。
あるとき、川上より一本の白羽の矢が流れつき、水桶に止まったのです。
それを持ち帰って庵の軒にさしておりますと、女は懐妊して男児を産みました。
この子が三歳になったとき、父はだれだと人々がいいますので、氏女はこの矢ですと申しました。
すると、たちまち、その矢は雷となり、天にのぼって、神の姿となったのです。
別雷(わけいかづち)の神がそのお方です。」
もう一人の娘は「その母子も神となって、賀茂の三柱の神としてまつられています。」という。
女たちは「石川やせみの小川の清ければ」と、新古今集にある鴨長明の和歌をひき、やがて舞になる。
貴船川、大井川、清滝川と次々に川の名前をつらね、それにまつわる古歌を謡い、連れ舞する。
神官は、そういうあなた方はどなたですと聞く。
すると、女は「名ばかりは白真弓のやごとなき神ぞかし(名ばかりは知らせましょう、わたしたちは、白い真弓の矢にゆかりの、やんごとない神かもしれません)」と、言い残して、退場する。
間狂言
【登場人物】
ワキ 室の神官
狂言間狂言 末社の神
そこへ末社の神が登場。
さきほど里の女が語った賀茂の神の縁起を狂言口調で語る。
室の神官の参拝を賀茂の神が喜んでおられ、舞を舞えと命じられたので舞うという。
末社の神は「舞事狂言舞事」をめでたく舞う。
後段
【登場人物】
後シテ 別雷神
後ヅレ 天女
ワキ 室の神官
やがて天女があらわれ、優美に天女の舞を舞う。
ひとしきり舞ったところへ、主役の別雷神が登場。
「われはこれ王城を守る君臣の道 別雷の神なり」と名のる。
「鳴神の鼓の時も至れば、五穀豊穣も国土を守護し」と謡いつつ勇壮な働事太鼓物をする。